プロは無償で商品を提供してはならないのか?

嫌儲の話題のもとになっているのはhttp://d.hatena.ne.jp/y_arim/20080620/1213943040というエントリ。そもそものことの発端は音声合成ソフトに漫画家がパッケージ絵を無償提供したという話題だった。

パッケージは、Gacktさんをイメージしたキャラ「神威がくぽ」のイラスト。「ニコニコ動画」ファンで「ベルセルク」などで知られる漫画家の三浦建太郎さんに、無償で描いてもらったという。

「がくっぽいど」7月末発売 “ニコ厨”漫画家・三浦建太郎さんのイラストで

この無償で描いてもらうに至った経緯がドラマチックである。

 パッケージは当初から、イラストにする予定だったという。Gacktさんの写真だと、本人が歌っていると勘違いされる恐れがあるためだ。「イラストの案はいくつかあったが、インパクトに欠けていた」――同社の村上昇社長は打ち明ける。

 同社は音楽ソフトを専門に扱ってきた企業。イラストレーターにつてもなく、悩んでいた。そんな時、漫画家の三浦健太郎さんが“ニコ厨”だと知り、三浦さんにお願いできないか考えたという。だが連絡先も分からない。一計を案じた。「ニコニコ動画」の時報広告で呼び出したのだ。

 5月30日午前0時の時報で、こんなアナウンスを流した。「お客様のお呼び出しを申し上げます。ベルセルクを執筆なさっている、漫画家の三浦建太郎先生、三浦建太郎先生。お客様あてのメッセージをお預かりしております。いらっしゃいましたらご連絡していただきますようお願い申しあげます」

 翌日さっそく三浦さんから連絡があり、がくっぽいどのイラストを快諾してもらえたという。しかも無償で。「今回のプロジェクトはニコニコ動画との関わりが大きく、ニコニコ動画はユーザーが無償で作品を発表している場だから、自分もニコニコ動画の世界には無償で作品を提供をしたいと申し出ていただいた」

「がくっぽいど」7月末発売 “ニコ厨”漫画家・三浦建太郎さんのイラストで

なんとも粋な話ではありませんか。

投げかけられた疑問点

というわけで、ここでカネの話をするってのは無粋なのだけど、今回の話題はその無粋の部分なので仕方がない。

マチュアならともかく、

1. 描いた絵に発生する原稿料や印税で生活しているプロが、
2. 商品のパッケージイラストを無償で描く

というのは商売仁義として原則アウトなのだ。これが無料配布とか、友人の作る同人ソフトにお願いされて一筆描いたってんならともかく*1、商業ベースで流通する商品でこれはない。対価を得て商品を作るという自らの職業を、自ら否定したことになる。

プロは無償で商品を作ってはならない

ここで、注意したいのは「これが無料配布とか、友人の作る同人ソフトにお願いされて一筆描いたってんならともかく」という下り。あくまで「商業ベースで流通する商品でこれはない」と言っている通り、パッケージ絵という商業的な事柄で無償提供なんてやったらいかんだろう、という話。

ブクマコメントとかを見ていると、この部分を見落としている人もいるように思われる。

さて、そこが本題ではない。商業ベースの、本来金を取るべきところで取らないというのはアリなのだろうか?

カネはどこから出てくる?

これは、カネをどこから引っ張るかという話題に尽きる。

古典的な商売としては、商品とカネを単純交換する。そういう商売しかしないという前提で言えば、「対価を得て商品を作るという自らの職業を、自ら否定したことになる。」

しかし、そういうビジネスモデルですら、商品を無償提供することがある。たとえば試供品。試供品なんてものは、まさに売り物の商品そのものを無料でばら撒くのだから、商品を売ってカネを貰うの原則に反する。

ま、でも試供品を何のためにばら撒くかなんてのはみんな分かっているだろう。試供品だけたくさん集めて節約〜♪とか言う奴への奉仕なんかじゃなくて、リピーター確保のために最初に手にとる、習慣を変えるという一番厚い壁を乗り越えてもらうためだ。

もちろん無料でばら撒いた分のカネは後の商品の代金で回収する。

つまり、商品をカネに買える為の手段は、単に商品とカネの物々交換という単純なものだけとは限らない。Googleのビジネスモデルなんてのはその最たるもので、優秀な頭脳を集めて検索エンジンを開発し、莫大な金をかけてデータセンターを稼働し続け、そして無料でわれわれに検索エンジンを使わせるのである。

作ったソフトウェアそのものもをカネと交換しているソフト屋からするとたまったもんじゃない。でも、それが成り立つのは別のところからカネを引っ張ってきているからである。要は広告だ。

極端な話、カネさえ得られるならば、そしてそれが破たんしないならば、商品をどう扱おうが構わない。

無粋なことは抜きにして

商業的には商品とカネのやりとりにはいろいろ方法があるから無償提供すなわち悪というわけではない。もっとも、そんなビジネスモデルをされちゃ困る、という意見はそれはそれであろう。手塚治虫氏がアニメの賃金を安くしてしまったなんて話題もある。

しかし、「ぜひあなたに仕事をしてもらいたい!」という心意気に対して、「そうまで言って貰えるとは嬉しい。ここはひとつ無償で提供しますよ!」というのは粋という奴で、裏を勘繰るのは無粋というものだ。

私の腕を見込んでシステム開発を依頼してくる人があったならば「分かりました、システムの設計は私が無料でしてさしあげます」と応えたくなることもあるかもしれない。

でも、開発ではしっかりカネとって回収してんじゃん、みたいな無粋なツッコミはしちゃいけないんだよ。それが日本人の和だし、粋だし、察するということだし、今風にいえば空気を読むということなんだ。

この話を聞いて、最初から無償で提供させようぜ、なんて下衆なことを考える奴には、ドロップキックをかまして塩を撒いておこう。