IT業界の本当のトコロ

IT業界の皆様に素朴な質問。に対して、何か書くかと言っておきながらずいぶん時間が経ってしまった。
いまさらだが学生諸氏に向けてIT業界の実態を書いておく。

話が食い違うのは会社によってまるで違うから

Webで見るIT業界の話というのは、酷いという話と楽しいと言う話の両極端に分かれていると思うが、なぜそんなに分かれるのかといえば、そうした両極端な実態があるからにほかならない。

大雑把には、

  • 技術がいらない会社
  • 技術が必要な会社
  • 技術を生み出す会社

ってのがあって、パーセンテージは90,9,1って感じだと思えばいい。

技術がいらない会社

IT業界は技術職だろうに、なんで技術がいらないの?という話になるわけだが、まずは業務システムってのがどんなつくられ方をするのか見てみよう。

いわゆるSIerと呼ばれる大手が何十億とか何百億とかいうスケールのでっかい仕事をうけてきて、それを下請けからひっかき集めた連中で開発するっていう仕事の仕方をすることが多い。これは建築業でいうゼネコンにたとえてITゼネコンという呼ばれ方をする所以だ。

いきなり何百人も技術者を集めるったって自社社員だけでは足りない。こうしたプロジェクト単位で人を大量に集める/解散するという業界の事情から、下請け、派遣などが盛んに行われる。

技術を持たない人で金を稼ぐシステム - プログラマーの脳みそや、収入の上限を定めた実例 - プログラマーの脳みそで書いているわけだが、この下請けや派遣といった場合に、給料は契約時点で決まる。そしてそれは大抵時間によって清算される。そうすると労働の牛歩戦術が蔓延するというろくでもない現場になる。技術は金にならない。

今現在、IT業界は「人材」不足が甚だしい。30代ぐらいになると伸びしろがはっきりしてしまうから、さっさと見切りを付けてどんどん新しい人材、というかより安くて働いてくれる20代に期待を寄せる。

こうして、大量に人間が使い捨てにされているってのが9割の部分。デスマーチの現場にいるのは少年兵と変わらない。最低限の技能だけを教育されて戦線に放り込まれる。奴隷商人と揶揄される派遣会社やそれに類する会社が多いのもそうしたビジネスモデルで稼げるからこそ。

勤務地がはっきりしないのは、投入されるプロジェクトによって場所が毎回異なるから。自社のオフィスで開発なんてことは少なく、大抵はSIerの用意したオフィスに出向いて仕事をすることになる。それはどこかの会社のオフィスの一角であったり、どこかの会社の工場の一角であったり、あるいは急ごしらえオフィス、つまるところ雑居ビルの一室であったりする。

技術が必要な会社

技術を持たない人で金を稼ぐシステム - プログラマーの脳みそで書いているが、大抵のIT業界の会社というのは技術を金に換えるのが下手だ。

ソフトウェアの良しあしなんてのは、素人にはどうにも分からないものだから、「どこに頼んでもそんなもんです」と言いくるめてしまえたりもする。つまり、相手に質がいいんだからお金ちょうだい!って説得がしにくい業界とも言える。

だもんだから、人月という単位が使われる。人×月で1人の技術者が一カ月働いて作るぐらいのシステム規模、といった、ぶっちゃけていえば勘で決められる数字なんだけど、これを基準にIT業界の多くは回っている。

んで、作業量の単位なんだから、一人で2人月分の仕事を一ヶ月でやりました!ってんなら2人月分払ってくれるなら頑張りようもあるのだけど、払ってくれないのである。代替、開発の現場は自社オフィスじゃなくて、相手の用意した現場だから、とにかく頭数をそろえないと納得してくれない。

そんなわけで、技術力をうまく金に換えたければ、腕を誇示して月の単価を引き上げてもらうか、出向いて仕事をするって方向性から決別して自社で開発をする「持ち帰り」と呼ばれる形態にする。

結局、大抵は全社の単金引き上げ交渉ぐらいしかしないのだけど、それで増える金額なんてたかが知れている。その辺に転がっている連中から2割ぐらい高値で取引できたら相当に頑張った方。そんなものは30時間ばかしの残業代でひっくりかえる程度の金額だ。

そういうわけで、技術をうまく金に換えられている見込みがある会社というと、自社開発の製品をパッケージ(お店の店頭で売っているようなソフト)にして販売しているところとかだろうか。こうした会社は業務システム開発の受注をやる会社に比べるとかなり少ない。

技術を生み出す会社

これはさらにレアなのだけど、ベンチャー企業などか、もしくは大手企業の研究部門のようなところ。

ベンチャーっていってもベンチャーもどきの会社も沢山あるし、そもそも知名度がないわけだから狙って就職するってのは難しい。企業の方は相当な学歴持っているなら採用試験とかアタックしてみるのも手かもしれない。

そんなわけで

ゲームに憧れてプログラムをしようと思った、なんてのはプログラマの中にはたくさんいる。そして、その思いが本当ならどうにかゲーム業界に潜り込んだほうがいい。

自分はバイトとかでかかわったことがあるけど、なかなかチャンスに恵まれず結局業界に根を下ろすことはなかった。2000年前後の当時、学生だった自分はライブラリなしにポリゴンを描いてグローシェーディングぐらいまではできるぐらいには基礎技術があったけど、間が悪かったというのもあった。

その後、結局は派遣とか個人事業主を経て、法人化するに至るのだけど、技術をいかに金に換えるのかという問題に関しては「そうは問屋が卸さない」の言葉通り、相手が契約を受諾してくれない限りどうにもならない。今なお業界の悪しき商習慣と格闘中である。

ほどほどの技能で安定した待遇を確保したいのであれば、SIerの正社員になるのが一番に思う。真っ向から就職するか、もしくはとりあえずIT業界に入って、腕を磨けば現場で評価されて「うちにこないか?」と誘われるかもしれない。

法律の関係で微妙なラインもあるんだが、業界の人材不足は深刻でほどほどに腕がある人間なら中途でも欲しいというのが実態。現に、自分も大手SIer中途採用枠で誘われたことがあるが、ぶっちゃけ楽しくなさそうだったから全部蹴った。

いろんな現場を見てきたし、その間に多くの人にあっていろんな会社の評判を聞いたわけだが、ブラック会社というのは確かにある。デスマーチの中で出会った人には残業代もでないんだ、と言っている人もいた。割り切って使うなら派遣会社と契約する方がよほどマシだろう。派遣で働くなら業界の資格は結構効果がある。

良い会社に一発で入れたならそれは幸せだと思う。運がモノを言う。実力でどうにか逆転したいなら、ひたすらに技術を磨いて中途枠を狙う方が競争率は低いかもしれない。