パロディ封じに対するニコ動のしたたかな戦略
「ニコニコ動画」でMADも削除 ドワンゴが権利者に申し入れ - ITmedia NEWS
他のメディアでも報じられているが、映像関連の団体から著作権侵害動画の削除要請を受けたようだ。
まるのままアップロードする真っ黒な動画はさておき、MAD動画と呼ばれるパロディも著作権侵害動画とされたようだ。MADの場合はたぶん「同一性保持権」の侵害ということになるのだろう。
著作権法改正でニコ動などの法関係はどうなる? - プログラマーの脳みそでも書いたが、著作権法改正の動きがあるようで、パロディなどの利用をフェアユースとして認めるのではないかという話も出ていた。
実際にどうなるかは法案が可決するまで分からないわけだが、フランスにはパロディ条項なるパロディを認める条文があると聞く。現行法では判例も含め日本ではパロディは認められたことはないわけだが、パロディ文化の封殺というのは表現の自由という観点からするといささか合致しないようにも思われる。
では、ニコニコ動画の対応はどうかというと、これがなかなかしたたかである。
動画削除時の仕様について、要望掲示板などで様々な要望を頂いておりましたが、『権利者申し立てによる動画削除の場合、権利者名を表示する機能』を、7月5日午後に実装を予定しています。
権利者名表示の対象は、本機能の実装後、『権利を侵害、または権利者からの申し立てによる動画削除』の場合。表示箇所は、動画再生画面外の動画説明文のエリアとなります。
権利者名表記については権利者が「法人・団体」の場合「法人・団体名」、権利者が個人の場合「個人の権利者の権利を侵害しているため、又は申し立てがあったため削除されました」という表記になります。
動画削除時の仕様変更について
この機能の意味が分かるだろうか?
つまるところ、権利侵害だ、削除だ、と言っているのは誰かということが白日のもとにさらされると言うことである。
パロディなんざ一切認めないという強硬策が、むしろ心証を悪くし、パロディによる広告的効果という側面を否定することになる。そのターゲットが誰か、怒りをぶつける先は誰かということを明確にするわけである。
もちろん、反社会的なパロディに作品を使われたなら権利者は怒っていいわけだが、そうした「ですよねー」的なMADではなく、ファン活動としての善意のパロディを強硬に取り締まるのであれば、その権利者の作品からファンは遠ざかることであろう。
角川あたりは、パロディなどによる二次利用に対して単に拒絶すると言う対応ではなく、そうした動画を認可して広告に利用しようと言うのだからうまい。
つまるところ、権利者権限での削除と言う行為が衆人環視のもとで行われるわけである。迂闊になんでもかんでも削除とすれば、逆にファン離れを招きかねない。こうした直接的な民意にこのMAD動画の問題を移したというわけである。
ある会社が強硬策に出る → ユーザの反発が高まり不買運動 → パロディ条項作って保護した方がいいんじゃないの機運が高まる → 審議中の著作権法改正に盛り込まれる
なんてシナリオはできすぎかもしれないが。
追記:パロディの広告的効果の肯定と否定
パロディなんざ一切認めないという強硬策が、むしろ心証を悪くし、パロディによる広告的効果という側面を否定することになる
パロディ封じに対するニコ動のしたたかな戦略
パロディの広告的効果というのは現実にあるわけで、その存在を否定することはできないが、パロディを禁じたからと言って売れないと主張する気はない。
例えばディズニーなんかは強硬派で知られるわけだが、ディズニーが倒産の危機にさらされるかと言うとそういうわけではない。ディズニーの濫用じゃないかと思えるほどの著作権の行使は、さんざんネタにされdisられているわけだが、そのマイナス以上にコンテンツに魅力があれば商売としては儲かる。
パロディなどのファン活動を推奨するような企業もあるし、権利者側がそうした活動を通じて知名度向上を狙うケースもある。パロディによる広告的効果を肯定してうまく利用した例だ。
逆にディズニーはパロディによる広告効果を否定して、あまりの強硬策をネタにされつつも、それ以上のブランドを築いているという例だ。そんなディズニーといえども、事前に承諾を得てライセンスを払ってキャラクタを使うことはなんら問題がない。結局は、権利者と二次利用者との個別契約によるわけだ。
二次利用での創作をする層と、単純消費の層が分離されるなら、創作の層を拒否しても商売になる。
ヲタクはどちらかといえば創作をするユーザが多いわけで、対ヲタク向け商品を売るなら、二次創作を広く認める方が有利なように思われる。
ペンギン娘の例が挙がっていたので確認してみたが…。まぁ、コンテンツの素地の力ありきのはなしだよな、ということでお茶を濁しておく。