芳文社の著作権の主張を考察する
はてなブックマーク - まんがタイムきらら - 著作権について- まんがタイムきららWebが盛り上がっていたので、ちょっと考察してみる。
芳文社の主張は以下の通りだ。
芳文社はインターネット及びイントラネット上において、当社の出版物および当社の公式ホームページ上の情報について、以下の行為に無許可で使用することを禁止しております。
- 出版物の装丁及び見開きなどの画像の全体又は一部を掲載すること。
- 出版物の内容及び目次などの全体又は一部を掲載すること。
- 出版物の要約及び出版物を元に制作した小説などを掲載すること。
- キャラクターの画像及び写真等の全体又は一部を掲載すること。
- キャラクターの自作画(イラスト・パロディなど)を掲載すること。
- 出版物やキャラクター(自作画を含む)をフリーソフトやアイコン、壁紙等に加工して掲載すること。
- 芳文社ホームページの内容(画像・データ・ソース)の全体又は一部を転載すること。
以上の行為は営利・非営利の目的いかんに関わらず著作権等の権利侵害となります。
まんがタイムきらら - 著作権について- まんがタイムきららWeb
守っていただけない方には法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。
さて、「以上の行為は〜著作権等の権利侵害」と主張しているが、法的にどうなのだろうか。
著作権法における「引用」
まず、著作権法第32条に認められている引用について、芳文社が「著作権等の権利侵害」とは主張できないはずである。*1
引用には作法があって、作法を満たすのであれば、著作権者に対して一切無断で自由に行うことができる。ただし、引用の要件を満たさない場合は権利の侵害となることがある。引用についてはWikipediaを参考にするとよいだろう。
一般に、適切な「引用」と認められるためには、
1. 文章の中で著作物を引用する必然性があること
2. 質的にも量的にも、引用先が「主」、引用部分が「従」の関係にあること。引用を独立してそれだけの作品として使用することはできない。
3. 本文と引用部分が明らかに区別できること。例『段落を変える』『かぎかっこを使用する』
4. 引用元が公表された著作物であること
5. 出所を明示すること(著作権法第48条)が必要とされる。
引用 - Wikipedia
Web上では2を満たさないケースをよく見かける。全文引用をして、感想を一行、というのは引用の要件を満たさない。また、話の流れから、あとはXXのサイトを参考にしろ、と言ってその後に該当サイトでの説明を転載する、というケースは多分NGとなるだろう。*2
引用は著作権法によって保障される権利なわけだが、単に人の著作物を別の場所で公開する、つまるところ「転載」は権利侵害とされる。
「引用」と「転載」を明確に区別されたい。
「掲載」と「引用」
- 芳文社ホームページの内容(画像・データ・ソース)の全体又は一部を転載すること。
の一文は「転載」という表現を使っているが、他は「掲載」という表現を用いている。
goo辞書で調べると、
けいさい 0 【掲載】
の意味 - goo国語辞書
(名)スル
新聞・雑誌などに文章や写真をのせること。
「新聞に観戦記を―する」
とあり、単にメディアに載せることを意味する表現である。引用だろうが転載だろうが、掲載に含まれるのではないだろうか。
そう言う意味で、「以上の行為は営利・非営利の目的いかんに関わらず著作権等の権利侵害」というのは線引きが怪しい。「引用」は「掲載」で「権利侵害」ではないのだから。
イントラネットと私的利用
イントラネットというと、家庭内のLANとか、外に繋がってないクローズドなネットワークを指すと思ってもらえば良い。
イントラネット内だったら著作権法に認められる「私的利用」であって「以上の行為は営利・非営利の目的いかんに関わらず著作権等の権利侵害」ではないのではないか−。
ところが、イントラネットでの配信に対し、著作権を侵害したとする判例がある。
社会保険庁がイントラネットに「週刊現代」の記事を掲載し、著作権侵害として損害賠償を払う羽目になったという話。
著作権法は第30条で「私的使用を目的とした複製」を認めている。では、この「私的使用」というのはどういった範囲なのだろうか。これは「個人的に又は家庭内、或いはこれに準ずる限られた範囲内」とされる。
そうなると、やはり家庭内のイントラネットであれば、そこに置かれる著作物は私的利用を逸脱せず、「以上の行為は営利・非営利の目的いかんに関わらず著作権等の権利侵害」とは言えないことだろう。この点も線引きがどうにも怪しい。
「まんがタイムきらら」における同人活動
ところで、当の芳文社の発行する「まんがタイムきらら」には同人活動をテーマとした作品、「ドージンワーク」が連載されている。
この作品はアニメ化もされているし、表紙を飾るほどの看板作品のひとつである。
表紙の画像を引用しておいたので参照されたい。これは「まんがタイムきらら2008年8月号」の表紙である。
ご覧のとおり、「ドージンワーク」は中央にそのタイトルが表示され、同作品のキャラクタが雑誌の表紙を飾っているわけである。このように、同人活動をテーマとした作品を表紙にしているという事実がある。
このような事実から、芳文社は同人活動がいかなるものかは相当に把握しているはずであるわけだが、流石に出版社としては二次創作をおおっぴらに肯定できないのだろうか、このドージンワーク、作中には二次創作は出てこない。同人だがあくまでオリジナルの作品となっている。*3
出版社としては、作家の育成を考えると、オリジナルの同人活動は推奨したいところだが、版権ものはやめて欲しい、というジレンマがあるように思う。
ところでその警告文・・・
すでにブックマークなどで指摘がされているが、小学館の条文まんまであることは疑う余地がない。
条文は著作物にならないので法的にはセーフ?しかし、必死でオリジナルの条文を詰めた人は報われないなあ…。