早とちりは先読みの副作用かもしれない

文章を斜め読みするとき、タイトルや目立つ単語などで文章の構成、主張の内容を推測しながら読んでいるのではないか―

というのは、先日のトリアージの話。

自分は常々、業務のソースコードリファクタリングをして再利用性、拡張性、メンテナンス性、まぁいろいろあるけど、品質を気にして維持している。自分の書くコードだけではなく、自分のチームのコード全体を高品質に保つように目を光らせているわけだ。

平時であれば、他社のチームのソースだろうと口を出す。


情けは人の為ならず。


情けというのは人のためにかけるのではなく、自分の為にかけるのだ。他社のソースコードの作りの酷さに引きずられて、こっちまで変なコードを書かされる羽目にならないように、口を出す。干渉する。

ソースコードのトリアージ - プログラマーの脳みそ

自分の書いたソースコードじゃなくても、品質維持のために労を惜しまない方がいいよ、その方が回りまわって自分が酷い品質のコードに起因するバグなどに振り回されないし、プロジェクト全体が円滑になれば人から感謝されて評価も上がるし、メリットが大きいよという話だった。

情けは人の為ならずのよくある誤用

「情けは人の為ならず」はよく誤用されることで有名な諺である。

1960年代後半、若者を中心にこの言葉を「情けは人のためにならない」と思っている者が多いと、マスコミなどで報じられた事が話題となった。2000年ごろより、再びそのように解釈するものが増えていると報じられる。2001年の文化庁による世論調査では、この語を前述のように誤用しているものは48.2%と、正しく理解しているものの47.2%を上回ったという。

情けは人の為ならず - Wikipedia

「情けをかけるべきではない」という意味に捉えている人が半数ぐらいいる、という誤用の多さである。この諺を見かけるたびに、誤用なのか疑ってしまうぐらいにはよく誤用される。

誤読したブクマコメント

先日ついたブクマコメントが興味深い。

”情けは人の為ならず”の使い方間違ってるなぁ…。”誰にでも親切にしておいた方が良い”ってのが本当なんだけど、全然そんなこと書いてない件。

はてなブックマーク - プログラマーの脳みそ

当blogでは冒頭挙げたとおり、誤用ではなく「誰にでも親切にしておいた方が良い」という本来の意味で用いているわけだが、どういうことかこの人は私が誤用していたと勘違いしている。

正にそのことを書いたエントリを見て「全然そんなこと書いてない件」と全く正反対の解釈をしている。

どうしてこのような誤読が起こったのだろうか?

斜め読みの早とちり

まず、タイトルに「ソースコードトリアージ」とあるわけだから、何かを切り捨てる話と思って読むのが自然だろう。ここで読み手に「切り捨て」を期待させる。

となれば、読むにあたって「何を」「どのように」「どうして」切り捨てるのかという心構えができることだと思う。まるでLL(n)法の構文解析みたいだ。

さて、そこで目に飛び込んでくるのは、中央にスペースを空けて強調された「情けは人の為ならず」の文字。

ここで、「トリアージ」「情けは人の為ならず」と見れば、「情けは人の為ならず」を誤用して「人に情けをかけるべきではない」の意味で使っていると解釈すれば、「ソースコードトリアージ」と自然に繋がる。

これでこのエントリの内容を掴んだと思ってblogの結末を読むと

それでも手が足りなければ、最悪、自分のチームだけは救おうとする。非常時に設計の仕方をレクチャーする余裕はない。

ソースコードのトリアージ - プログラマーの脳みそ

あぁ、これは「情けは人の為ならず」を誤用してプロジェクトの周囲の連中を切り捨てる話なんだな、と理解する。

このような誤読を避けるには

論文やビジネス文章では、読み手の期待する流れを裏切らないように文章を書くのが基本である。

そのため、まずは冒頭に全体の流れを見せるために概要を書き、それから順を追って細部を報告する形式にする。

だが、読みモノとしての文章では、それではあまりにつまらない。


良い意味で期待を裏切らないといけない。


なので、結論を隠したまま話を進めるようなことをしてしまう。タイトルで「〜とは?」と謎かけをするようなケースなどが顕著だ。件のエントリは

  1. 納期差し迫る非常時には出来ないことがある。それは何か?
  2. 情けは人の為ならず、周囲に労力をふりまいてでも品質維持すべし
  3. でも納期前だと切り捨てざるをえないよね、トリアージだね

という構成をとっていた。しかし、パーツの毎の意味が強烈に過ぎた感がある。

というキーワードから起草されるエントリはどんなものだろうか。そしてその期待感を持って斜め読みするのだ。

このような、ちょっと狙ったキーワードをちりばめるとき、そのキーワードだけから思い起こされる内容を想定しておいた方がいい。そして、そういう話じゃないよ、というように釘をさす(しかし話に水はさしてはならない)ようにするべきではないだろうか。

と、いうのが先日のエントリとそれにまつわるブクマから得られた教訓。