株式会社マジカジャパンの羽生章洋が書いてるブログ:元請けにこだわる理由 - livedoor Blog(ブログ)
「元請けにこだわる理由」の「いいがかり」についてひとこといっておくか - yvsu pron. yas
あたりの話。
自分は地方の零細の下請け会社なわけなんだけど、自分の判断で契約を行える自由を持っている。かといって、契約内容については、実はそれほど自由には決められないものだ。
というのは、こっちの話ではなく、相手側の話なのだ。中規模以上の会社と契約しようとすると、おおむね定型の契約方式のいずれかを選択、変更可能なのは一部の数字だけ、ということが多い。
フリーエンジニアになってぶち当たる壁
IT関連と言うのは独立が非常にしやすい。設備投資などがほかの業種に比べ圧倒的に少ないから、自分の技術力を買ってくださいと個別交渉することさえ出来るなら即刻独立することができる。
フリーの身になってどんな自由を得られるかと言えば、自分で仕事を選ぶ自由が与えられる。自分で契約を執り行う自由が与えられる。会社命令という束縛はない。そのかわり、仕事が取れないとカネも入らなくなる。
フリーになっていままでは経理任せで一切口を出せなかったカネの流れが自分のコントロール下に置かれるようになる。契約の締結から経費の取り扱いまで自分の責任の元に自由自在だ。
よし、自分はこんな風な仕事の仕方をしよう、といった夢を見るかもしれない。しかし、現実には契約と言うのは相手が首を縦に振ってくれないと締結できない。こちらの提示できる条件は少ない。とても少ない。交渉の余地は想像以上に少ないのだ。
外注の際の内規
ようは、相手の内規にはずれた契約はそうそうできないってこと。IT業界は外注が多い業界だから、外注する際の発注方法に内規を設けている会社が多い。大口取引になって大手側のエライヒトを引きずりだせれば話は違ってくるのだろうけども。
そもそも、いわゆる人月単価ですら、5段階ぐらいのテーブルが決まっていて、仕事内容と支払単価にほとんど交渉の余地がなく、見積書の作成が出来レースだったりするんだからたまらない。もちろん、その単価はプロフェッショナルを雇うには安すぎる金額。
真にアーキテクトなら年収1000万は軽く超えるだろうが、これを12か月で割って83万ぐらい。もちろん、人件費以外の諸費用もかかるわけだから最低でも100万ぐらいの単価を出してくれないとそんな人間を送り込むことはできないわけなのだが、内規でそんな単価は出せないとなるから、仕方がないのでセット価格で5人で300万でどうですか、一人60万ですよ、という内容で契約して再配分するとか言うことが行われる。
相手の書面上はあくまで相手の内規の範囲におさめなくてはならない。
要件定義とかシステム設計のコアな部分の少数精鋭型の仕事だとそんな手法も使えない。「技術力ある人いませんかねぇ」と相談されても、その金額じゃ無理でしょう、としか言えない。
契約を変えることの難しさ
お互いが得をするWin-Winな画期的な契約方式を思いついたとして、それを実現するには向こうのエライヒトを引っ張り出して超法規的に契約を行うか、そうでなければ相手側の内規を変えてもらうかしないといけない。
今のIT業界で契約が足を引っ張っている部分と言うのが相当にある。技術者がちゃんと技術志向で相応の技術を身につけろよ、という話題と、この契約の部分を併せて改善しないといけない。
この商習慣を変えるという部分が業界をよくする上での一番のネックだと私は考えている。
元請けのメリット
IT業界間の下請け契約とかだとこうした契約の不自由さが目立つのだけど、顧客から元請けで仕事をとるならばこうした窮屈はない。
業界内の慣習というのは代えにくいかもしれないけども、外とのやり取りは変えやすい気がする。そして、そう言うところから「契約のあるべき論」を確立して、業界内に逆輸入するような形で圧力をかけるのが業界の商習慣変更シナリオとしてはいいんじゃないだろうか。
多重下請け構造は上の契約形態が下に影響する。上から下に流す時点で、損をするような形で下に流すことはまずしない。だから上の契約が不合理なものだと、下の契約も不合理なものになりがち。*1
私なんかは「労働の牛歩戦術」を否定するというポリシーを持って契約をするようにしているわけだけども、そういうポリシーを発揮しやすいというか、その自由があるのが元請けだろう。新しい方式を提案する企業が出ると話題に上がる。
元請けのデメリット
ただし、顧客を直接相手にする場合は別の意味で窮屈を感じることはあるかもしれない。
個人的には官公庁の入札とかは割に合わないなぁと思う。要件定義において良いシステムを作るために協力しましょう!という信頼感をどうも作りにくい感じがする。社会保険庁とかは関わり合いになりたくないな。IT化で仕事がなくなるのを危惧するような人相手にどんなシステムを提案できると言うのだ。
入札とかは仕様とか要件とかを元に金額を提示するわけだけど、もちろん、そんなのは役人が書いた自然言語での曖昧極まりない代物で、要件ばブレる。凄くブレる。字面がどうだろうと「こういう意図で書いているんだ」と押されたら、表現の解釈問題ですったもんだすることになるし、変な労力を使う。
従兄弟が市役所勤めだったりするんだけど年々役人体質になってきて、大企業病みたいに役人ってのは感染するものなのだなと思った次第。
話がそれた。役所に限らず顧客というのはITに関しては素人なわけだから、仕事の良しあしの判断が素人然としているのは要注意。ビジュアル的な部分の話には食いつくけど、仕組み的な部分での不整合からそういう機能は作れませんみたいな話は全然聞いてくれない。ビジュアルでごまかしたシステムでも喜んでくれるのかもしれないけど、そういう品質のモノを売りつけるようになったら堕ちるところまで堕ちてしまいそうだ。
大雑把な交渉パターン
- 仕事のスタイル
- 一括請負 : ある仕事をいくらでやります、という契約。内側でかかった費用については干渉するなという世界。高い金額で受けて安く仕上げられれば利益がたくさん出る。下手をすれば赤字をまるかぶり。
- 時間単価 : 1時間いくらという契約。月間の基準として160時間の労働時間として、±10時間の範囲ならこの金額、それに満たない場合は1時間いくらで減額、多い場合は増額という計算式になることが多い。相手がケチだと基準時間が170とか180とかになって残業代が出にくくなってたりする。デスマ必至みたいなプロジェクトを敢えてやるならこの方式で。労働の牛歩戦術が最大利益を生むことから、私はプログラミング技能が求められる仕事でこの契約は行うべきではないと考えている。
- 勤務場所
- 持ち帰り : 自宅なり自前のオフィスなりに持ち帰って仕事するスタイル。時間も自由だし変な監視の目もなくマイスタイルを謳歌出来る魅惑の契約。でもwinny事件以降、機密持ち出しが厳しくなってなかなか持ち帰らせてくれない。この点でフリーエンジニアは金子氏を恨んでいいと思う。一括請負とセットで。
- 現場作業 : 現場ってのは元請けのオフィスのこと。元請けのオフィスの一角で作業をする。
- 派遣 : 元請けのオフィスの一角で作業するのだけど、派遣の場合は派遣先の会社の指示のもとで作業する。自分の指揮管理が派遣先会社になる点がポイント。元請けで現場に入っている場合、本当なら元請けの社員から直接指示で作業をしちゃいけないんだけど、この辺が曖昧で法的にはグレーになっているケースがわりとある。
- 支払日とか
- 納期 : 納期と作業期間がほぼ同一になっているケースが多い。本当に一括請負ならともかく、元請けの管理下で作業して期間が延びる場合は別途伸びる分だけ契約出してもらって作業することが多い。一括なら死守。相手側の事情で作業量が変わったのなら、併せて納期や金額の交渉もしないといけない。
- 時間契約などではこの日からこの日までの作業分を、翌月のXX日に支払う、みたいな感じになる。一括請負でも例えば3か月仕事をして納品してから丸ごと支払われる方式というのは少なくて、月毎に分割して支払われる契約が多い。そのためには納品書類やらいろいろ書く破目になるんだがその辺は仕方あるまい。前払いなんてのはまずない。*2近年はケチで〆日と支払日の間が長いことが多い。末締め翌翌月末払いとか言われると、思わず微妙な表情を返してしまう。
- 作業内容 : 自分がやる作業についての記述。欧米の契約だとここに書いてないことは一切やらないぐらいの勢いの非常に重要な項目。日本だと適当。越権行為的な仕事をすることもあれば、自分の仕事でもない仕事をやるはめになることもある。多少のことに目くじらを立てると空気嫁と言われるところだが、あまりに違うようだと問題がある。「XXも任せたいなら請け負いますけど、別途契約出してくださいね」ぐらい言わないと詐取されかねない。
- 納品物 : 書類上、こういうものを納品せよと書いてあったらとにかくそれを出さないことにはお金を貰えない。仕事の内容と合致しない納品物が書類に書かれていると変な苦労をして仕方がない。
- 検収 : 納品物の査定みたいなもの。本来はどういう条件をクリアしないといけないとか明文化されないといけないはずの肝心な項目なのだけど、なあなあになっていることが多い。
- 瑕疵 : バグがあった場合とかの責任とか。瑕疵担保責任と言う奴。検収後1年と書いてあるのに1年以上経ってからバグが見つかったんで直せとか言われたら金払えと言っていい。文面が無限責任っぽく書かれていると勘弁してくれと思う場所
典型的な契約書だとこんなところ?あんまり工夫の余地がない。金額の単価にはシビアで1万円の単価上昇を交渉するだけで随分と疲れる。正直割に合わない。頭数を増やして内々に再分配するほうがよほど楽。だからブラック企業みたいなのが出てくる。いまの商習慣だと奴隷商人方式が一番効率的に利益を得られる。労働は牛歩戦術になるが。