旧メディアの中でのスタンスの違い

 以前のエントリで

コンテンツが無料で手に入る時代になって、TV局が動画共有サービスに苦言を呈していたりするわけなんだが、そもそもコンテンツを無料で配布していたのはTV・ラジオといった旧メディアだった。

コンテンツは無料を広めたのは誰? - プログラマーの脳みそ

と書いたが、旧メディアといっても新聞は結構立ち位置が違うんじゃないか、と思った。

 「放送」であるところのTV・ラジオと新聞は収入モデルが違う。TV・ラジオは放送という手段でコンテンツを無料でばらまく。そうしてマスに対して訴求できるという力を売りにして広告主に金を出させるのだ。コンテンツを作る料金を広告という別のところで賄う広告モデルである。作ったものを売って金を貰うのではなく、作ったものは無料でばら撒き、他からカネを得るというトリッキーなビジネスモデルを使っているのだ。

 新聞はそもそもが有料媒体でキヨスクで買うと120-140円ぐらい(だったと思うが電車通勤生活から離れて久しいので自信がない)なわけで、日刊の有料雑誌なわけである。週刊少年ジャンプが240円だったっけ?日刊で120円で販売する雑誌と捉えると、Webニュースに対する新聞社の危機感と言うのは別の一面を見せる。

 新聞のコンテンツはニュースであり、これらは小さなコンテンツの集合と言う特徴を持つ。文芸雑誌などのコンテンツと比べるとよくわかる。この細かさがWeb媒体にマッチするのが運のつきだったのかもしれない。Webで読む文字というのは紙媒体のそれと同量だったとしても多く感じる。ぶっちゃけて言えばWebというかPC上で文字と言うのは読みにくい。Webページで「長げぇよ!」と突っ込まれているものを紙に印刷するとあら不思議、2,3ページに収まる短い文章になってしまう。なので、Webのページデザインにおいては、1ページに情報を詰め込み過ぎないように配慮する。まぁ、あまり細かく次ページ、次ページとめくらせるのもイラっとくるのだけど。

 というわけで、新聞のメインコンテンツであるニュースというのは、Webで見るにはちょうどいい分量なのである。が、そもそも新聞は日刊の有料雑誌なのだということを思い出してほしい。それを無料のコンテンツとしてばらまかれてしまったら、そもそもコンテンツを作るのにかける費用をどうやって回収するのだ?という話になるのは当然だ。

放送のビジネスモデルのあおりを喰らった新聞

 新聞はコンテンツの有料販売を生業としていた。それがWebの登場によってTV・ラジオといった放送メディアと同じコンテンツは無料、広告などの他のところから資金を回収、というビジネスモデルに引きずり込まれた、と見るべきだろう。

 ニュースという小さなコンテンツの集合体なだけに、試読の意味でコンテンツを出すということがやりにくい。というのは無料提供したコンテンツは小さいがゆえに完全な形で提供される。僕はネットニュースで世事を追いかけているが、いうなれば食品売り場の試食で毎日食事を済ませるようなものだ。

消費者に「コンテンツは無料」という意識を植え付けたのはTV業界そのものだ。消費者心理としてはもともと無料で流れていたものなんだから、という思いが強い。

コンテンツは無料を広めたのは誰? - プログラマーの脳みそ

 無料でお腹いっぱいになるまで試食させてくれる食品売り場があったら、わざわざ買う必要がない。挙句、代金はXX円ですと請求したら「ぼったくり」とか言われるんだからたまらないだろう。「コンテンツは無料」という意識を消費者に植え付けたTV・ラジオの負の遺産である。

 こういう競争ルールに引きずり込まれた新聞社は、グループ内のTVに対して「お前が広告モデルなんかやるからだ!」とは言えまい。となれば怒りの矛先は新聞が広告モデルにならざるをえなくなった最後の引き金を引いたWebに向かうのも仕方ないのではないだろうか。

 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0812/19/news042.htmlに描かれている新聞社の苦労というのは、作ったコンテンツを有料で売るというビジネスをしていた新聞社の悲痛なあがきともとれよう。