ソフト開発の効率化は会計処理改革から

あとで書きなおす。


 プログラムをある程度の量書くと、いわゆる共通ライブラリ的なものが生まれてくる。個人ですら生まれてくるわけで、業務でシステム開発やってる会社となれば相応に使いまわされるプログラムというのが生まれている。しかし、ほとんどのSIerはこの使いまわされるプログラムをまったくもって管理できていないのが実態だ。

 簿記と会計と財務の違いについてまとめてみた - GoTheDistanceのエントリが人気を博したが、このエントリではシステム開発における資産管理について述べたい。

費用と資産

 ここでいう資産とは財務会計上の資産である。

財務会計上の資産(しさん、asset)は、勘定科目の区分の一つ。会社に帰属し、貨幣を尺度とする評価が可能で、かつ将来的に会社に収益をもたらすことが期待される経済的価値のことをいう。

資産 - Wikipedia

 ソフトウェアの資産の扱いについてはソフトウエア会計基準に依る。資産の場合は減価償却になるし、費用ならその年の経費として扱える。

基準の内容は、ソフトウエアの開発目的によって異なる。自社で利用するソフトウエアの場合、(1)外部に業務処理などのサービスを提供するためのソフトウエアと、(2)利用により将来、収益の獲得やコスト削減が見込まれるソフトウエアの開発費は「資産」となり、それ以外は「費用」となる。この基準は自社開発したり、ベンダーに委託して開発したソフトウエアだけでなく、ベンダーから購入したパッケージ・ソフトにも適用される。

 既存のソフトウエアの改修やパッケージ・ソフトのカスタマイズにかかるコストも、(2)の条件を満たせば「資産」として計上できる。ただし、旧システムのデータを新システムに移行するのにかかったコストや利用者教育にかかったコストはソフトウエアの価値とは無関係なので、「資産」ではなく「費用」となる。

 外販目的のソフトウエアは、これとは別の基準で開発費を処理する。ソフトウエア会社の場合、最初の製品マスターの完成までにかかったコストは研究開発にかかったものとみなして「費用」、その後の機能強化にかかったコストは「資産」となる。ここでいう製品マスターとは、「仕様が固まり、機能評価版(ベータ版)でのデバッグが終了した状態のソフトウエア」や、「製品番号が付くなどして製品ラインアップに加わったソフトウエア」、「製品カタログに掲載されたソフトウエア」などを指す。

ソフトウエア会計基準 | 日経 xTECH(クロステック)

 業務システム開発における共通ライブラリは、外販目的のライブラリの体をなしていれば、その開発費を費用として扱える。また、開発の効率化のために作成したツール類は資産として計上できる。

 ソフトウェア開発はほとんどが人件費で資産計上できるものが少ない。業務における経費というのは課税対象にならないため、節税のためには経費に上げれるものは経費にあげた方がいい。利益=売上−経費というのは基本中の基本。税金はこの利益にかかる。そして法人税は利益に対して40%ぐらい。

共通ライブラリを資産にしてみる

 では共通ライブラリを資産として計上するとどうなるのだろうか?簡単な例を挙げてみる。

  1. 1億円の開発費でシステム開発を受注した
  2. 人件費などが5,000万円かかった
  3. 利益が5,000万円だった
  4. 2,000万円の法人税を取られた
  5. 税引き後の純利益が3,000万円だった

 これに対して、再利用性が見込めるライブラリの開発を社内プロジェクトで別に起こし、3000万円の開発費を充てるとする。これはライブラリ化して資産とし、必要があれば個別にランセンスして販売することをもくろむ。

  1. 1億円の開発費でシステム開発を受注した
  2. 社内で3,000万円の開発費でライブラリを作った
  3. 人件費はライブラリの部分を除く2,000万円
  4. 利益は売上10,000万円-人件費2,000万円-費用3,000万円 = 5,000万円
  5. 2,000万円の法人税を取られた
  6. 税引き後の純利益が3,000万円だった

 なんだ、なにも変わらないじゃんか。

んで何がしたいのよ?

 結局、面倒なことをした割には変わらないじゃん、という話になりそうなところだが、ライブラリを資産にするところに意義がある。つまり、ライブラリが売れた場合に嬉しいことが起こるのだ。

 別の1億円のプロジェクトがあったとして、そちらでもこのライブラリを利用したとする。そして、3,000万円分の人件費がライブラリを使うことで浮いたとする。今度はライブラリの開発費がかからないわけだから、3,000万円分はまるまる経費が浮いたことになる。利益が3,000万円アップするのだ。

 現状では、ライブラリの再利用はまったく管理されていない。開発費が減ったとしてそれが、技術者が過去のライブラリを再利用したからなのか、見積もりが誤っていたのか、とある開発者の能力が高かったのか、まったく不明なのだ。そして、見積もりとかが技術者の勘でなされる業界だし、その勘の誤差も大きいから、そうした誤差のうちだと見過ごされてしまうことだろう。

 ライブラリが資産という地位を持って、開発費がいくら、そしてどれだけのプロジェクトで再利用されたのかという管理の俎上に上がることはとても意義深い。ライブラリが評価される体制を作ることで初めてライブラリを設計する技術者を正当に評価できると言える。

 これは財務会計的な意味でライブラリの価値を見つめるだけならず、技術者に対してライブラリ化する意義を示し、推奨し、鼓舞することにもなる。

 オブジェクト指向などのソフトウェア工学はソフトウェアの再利用性を高めたが、その資産を管理する会計処理が追い付いていないのが現状である。実態に即したソフトウェアの評価を行い、本当に価値のある仕事をした技術者は誰なのかを評価できるようにしなければ、コスト削減の掛け声とともにデスマーチを歩むことになるかもしれない。