http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20080620/1213943040に関連してプロは無償で商品を提供してはならないのか? - プログラマーの脳みそを書いたらhttp://d.hatena.ne.jp/ki2neko/20080621/p2と反応されたので、ちょっと論点を整理してみるとしよう。
ひとくちにプロは、というが…
元記事のid:y_arim氏もid:ki2neko氏もそうだが、「プロは」と一口に言っている。ここで言うプロというのは、それを売って対価をもらう人(あるいは法人)を指していると思う*1。
しかし、私が前のエントリで指摘しようとしたのは、ビジネスモデルによって立場が異なり、無償提供を一切許せない立場の人もいれば、無償提供することで利益を得る立場の人もいると言うことだった。
これは、カネをどこから引っ張るかという話題に尽きる。
プロは無償で商品を提供してはならないのか?
(中略)
極端な話、カネさえ得られるならば、そしてそれが破たんしないならば、商品をどう扱おうが構わない。
そこで引き合いに出したのは、
- 試供品という無償提供
- Googleに見られる、ソフトを使わせて広告で収益を上げるビジネスモデル
であった。もちろんこれが全てではないが、無償提供しても困らない人がいるということを具体的にイメージするには十分な例と思う。
あなたのポジションは?
id:y_arim氏もid:ki2neko氏も無償で提供されると困るというポジションだ、というのはよくわかった。そして、その困りぶりもよくわかる。そして、その立場からすれば、無償提供などやめてくれ!と言いたくなるのもまた、よく分かる。*2
私も半分は困る立場だ。ソフトウェアの設計と開発を生業としているから、導入に伴うコンサルティング的な部分と、実際にモノを作る部分とに分かれる。私の場合は分かれるからこそ、半分しか困らないで済んでいると言える。
これは1円入札のようなもので、工事は無料でも保守費用で元が取れる、というビジネスモデルと類似する。どちらかが無料だろうと、総体として稼げるという道があるから、部分的に無料であることにそれほど困りはしない。*3
試供品の場合は、無料の部分と有料の部分が分かれているわけではない。同じものをあるいは無料で、あるいは有料でばら撒くこととなる。だから、無料の方ばかり貰おうとする人がいると困る。試供品ばかり集めて、決して商品は買わないという人は、企業の側からすれば客ではない。
報酬はカネばかりとは限らない
金銭以外の報酬をもってする仕事というのもある。
私は開発の仕事をやる上で、金銭の多寡よりも仕事の内容で選ぶ。自分の試したい技術を採用した案件であれば、飯を食う分に困らなければ引き受ける可能性がある。「Scalaで開発をやるんだけど月に10万しか出せない」とか言われても、短期間の案件なら引き受けてもいい。*4
また、コネというのも金銭に勝る報酬足りうる。もしも、ひがやすを氏と一緒に仕事ができるなら価格は安くてもいい。Sun直々の仕事でもそうだし、はてなやライブドア、楽天といった比較的メジャーなサービスを提供する会社の案件なら値段は二の次だ。
私が書く技術blogなんかも、金銭ではない報酬を得ているからこそやっている、という見方もできる。*5
心意気に打たれて行う仕事なんてのはそういうものだし、三浦建太郎氏もカネで買えない報酬を得たことだろう。ニコニコ動画の時報で直接呼びかけられるなんて、三顧の礼よりも心動かされるかもしれない。
だが、人の心を当てにして最初から無料で仕事をさせようなんて下衆な奴は論外。
最初から無償で提供させようぜ、なんて下衆なことを考える奴には、ドロップキックをかまして塩を撒いておこう。
プロは無償で商品を提供してはならないのか?
自分が困るから、そんなことはやめるべきだ論
よくよく注意すべきは、自分のポジションからして、困るからやめるべきだ、という主張になっていないかどうかだ。
俺は困らないから実施する。
俺は困るから阻止する。
そんなんじゃ、ただの喧嘩でしかない。
現に困る人と困らない人がいて、利害が対立する。その上で、あるべき論を考えるのであれば、一段メタな部分で考えなくてはならない。*7
困る、という立場の人は自分のビジネスモデルが脅かされるから困る、と言っている。
でも、別のビジネスモデルを持つ人間には別になんら困らないし、場合によっては既存のビジネスモデルの連中を潰そうと画策していることすらありうる。*8
そして、直接モノとカネを交換すると言う、原始的でシンプルなビジネスモデルしか許されないと結論付けるのだとすれば、Googleは排除されなければならないし、広告収入によって成り立つ地上波のTVも排除されなければならない。*9 *10
こうした、別の場所からカネを引っ張るビジネスモデルがダメだとすれば、その根拠は何だろうか。独占禁止法のように健全で公正な競争状態を維持するという根拠で足りるのだろうか。否定することで併せて禁じられるものは何なのか。それで本当に大丈夫なのか。*11
そうした議論を私は望んでいる。
*1:id:y_arim氏は「友人の作る同人ソフトにお願いされて一筆描いたってんならともかく」と述べている。対価をもらうべき場所とそうではない場所の両立を氏は認めている。
*2:ソフトウェア業界なぞ酷いもので、あまりにも高度なソフトがどういうわけか無料で配布されているのである。IT業界というのは、それに劣るソフトを作って対価を要求しなければならない。
*3:なんでもかんでも無料となると飯が食えなくなる。考えてみて欲しい。あなたの仕事が無料でもっといいものがあるから、君も無料でね、と言われることを。
*4:3カ月ぐらいなら本当に引き受けてもいい
*5:書籍の出版の話でも喜んで引き受ける。
*6:カネの呪縛から解き放たれて初めて、カネを抜きにメリットを享受できるようになるように思う。カネを追っているうちは無料でと言っても誰も相手にしてくれない。不思議な話だ。
*7:感情を挟むと見誤る。ポジショントークが、意図によるプロパガンダ的なものを超えないうちはよい。うっかりそのまま真実を探ろうとするとポジションに足をとらわれる。
*8:商人の世界はそうしたバトルが延々と繰り広げられている
*9:Googleは奪うと同時に与えることをし続けてきたから、それでも開発者に人気が高い。これは驚愕すべきことで、ブランディングを考えるならば見習うべきだと思う
*10:TVによる広告モデルは、OVAなどのCM広告を抜きにした映像コンテンツなどもあって非常に興味深い。そういえばペンギン娘の価格=スポンサーのないアニメの現状 | FANTA-G - 楽天ブログとか『ペンギン娘 はぁと』のDVDの価格が高いのは広告収入がないからではなく、OVAと同じで予想売り上げ枚数が少ないから - ARTIFACT@ハテナ系とかがそういう話題だった。広告によるビジネスモデルだけではなくいろんなビジネスモデルが混在するのがTV業界のようだ
*11:何かを策を講じるというのは影響を想定するのが難しい。その結果どうなるかを予測することはとても難しく、しばしば取り返しのつかない結果を生む。ジンバブエとかもそう。