著作権法改正でニコ動などの法関係はどうなる?

ニコニコ動画といえど、アニメ全編のアップロードとかは即刻削除される。これは著作権のうち「公衆送信権」にもろにひっかかる事項だろう。そういう分かりやすい著作権侵害はともかくとして、どこからNGってのがかなり難しい。*1

このあたりの判断が難しいことを鑑みれば以下のアンケートなどどれほどの意味があるのだろうか。

著作権に抵触している動画が削除されてもサービスを利用するか、との問いには、「それでも利用する」(11.9%)、「利用回数は減ると思う」(26.8%)、「著作権に抵触しない動画を楽しむ」(13.2%)など、51.9%が削除された後も継続してサイトを利用すると回答した。

 その一方で、「他のサービスに移る」(10.9%)、「その動画共有サイトを利用しない」(37.2%)と、全体の48.1%がその動画共有サイトの利用を止めると回答した。

「著作権動画が削除された動画共有サイトに用はない」約5割--アイシェア調べ

この記事は2008/05/26と日付が書かれている。このアンケートは設問に問題があろう。そもそもどの動画が著作権侵害で、どの動画が侵害していないかを理解している人による回答だろうか?

多分、完全オリジナルなホームビデオでもなければ、漠然と著作権侵害だと考えている人が多いのではないだろうか。「抵触」する動画って何を指しているだろうか。前述の「アニメ全編のアップロード」のようなものを指しているだろうか?だとすれば、すでに半数はニコニコ動画の利用をやめていることになる :-P

著作権に抵触している動画」にはいくつかパターンがある。そして、抵触していると思われているけども抵触していない動画もある。

批評・批判の為の引用として他の映像作品を含む場合 - 多分OK

判例を知らないのだけども、多分、映像や音楽であっても引用は認められると思う。引用は著作権法で認められた権利で、引用を禁ずることはできない。引用には制限があってwikipediaの引用の稿でも見ると分かると思う。*2

引用、つまり引き合いに出してあれこれと述べることを法は保護している。言論の自由という奴だ*3。正当な引用と認められるためには要件があることはwikipediaに書いてる。

1. 文章の中で著作物を引用する必然性があること
2. 質的にも量的にも、引用先が「主」、引用部分が「従」の関係にあること。引用を独立してそれだけの作品として使用することはできない。
3. 本文と引用部分が明らかに区別できること。例『段落を変える』『かぎかっこを使用する』
4. 引用元が公表された著作物であること
5. 出所を明示すること(著作権法第48条)

引用

これを守って映像作品について言及した場合、たぶん、法の下で白となるのではないだろうか。ちょっと判例でもないと分からないところだけども*4

法というのははっきりしているようで、結構あいまいだ。あいまいなところの線引きは実際に裁判で争って判決を出して決める。これは判例と呼ばれ、前例があると基本的には前例に従う。たまに判例が引っくり返るとニュースになる*5

Web魚拓の適法性 - プログラマーの脳みそではWeb魚拓について述べた。これもやはり判例がないのではっきりしないけども、現状では「引用」を満たすように随所に工夫が凝らされている。いざ争うことにならないとはっきりとはしないが、適法とされるんじゃないかと思っている。*6

映像はオリジナルだけども音楽を借用して用いている動画 - CDなどからの借用NG、演奏などはOK

音楽は勝手に使っていいのかよ!というとそういうわけではなくて、ニコニコ動画JASRACと提携しているから。

ニコニコ動画とYouTube、JASRACに著作権料支払いへ - ITmedia NEWS

ただし、JASRAC管理曲に限られる*7だが、その範囲においてはBGMなどに楽曲を使っている動画は白。「歌ってみた」「演奏してみた」「踊ってみた」などはまず問題にならない筈。

追記 BGMに音楽を使う場合

ブクマで指摘を頂いた。

音楽使うとき、元CDの音を使うと原盤権にひっかかるのでアウトじゃなかったっけ?

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Nagise/20080620/1213891478

確かに調べてみるとその通りだった。

 ユーザーは、JASRAC管理楽曲を自分で演奏したり歌った動画を、合法的に投稿できる。CD音源やプロモーションビデオなどをそのままアップロードする行為は、従来通り認められない(別途、著作隣接権者の許諾が必要)。

ニコニコ動画、JASRAC曲の演奏動画が投稿可能に

というわけで、BGMに使う曲はオリジナルか、著作権フリーのものか、独自に著作者から許可を得たものに限られる。

動画を加工してパロディとした場合 - 現状NG、改正でOKになる?

では、いわゆるMADなどと呼ばれる動画を切り張りして作られたようなパロディ作品はどうか?
多分「同一性保持権」が問題になるんじゃなかろうか。そしてこれは引用とは認められないから黒となろう。

パロディを争った例ですぐにみつかったのはパロディ事件なのだけど、事があったのが1970年で判決が1986年だ。もう20年以上前になる。

こっちの著作権法違反の非親告罪化でパロディに危機? 「告発マニア生み出す」という記事では2件と書いてあるけどもうひとつは何だろう。すぐには見つけられなかった。

 モデレーターを務めた弁護士の福井健策氏は、日本の裁判所ではパロディを認める判例は出ていないと指摘する。パロディに関する裁判は過去2回行なわれているが、いずれも「元の作品の創作的表現を借りている」という理由で著作権侵害とされた。「パロディはグレーではなく、日本では駄目というのが裁判所の考え方」(福井氏)。ただし、現場ではあうんの呼吸で通じていることから、「現場を動かすルールに裁判所が耳を傾けることが必要かもしれない」との考えを示した。

著作権法違反の非親告罪化でパロディに危機? 「告発マニア生み出す」

さて、このパロディだが、文化としては結構浸透していて、偏狭な人が激怒した場合でもない限り裁判沙汰になることはまずない。ちょっと法律が合わないのではないかというのは思われているようだ。

法改正の動き

ここにきて改正の動きがある。

 公正利用規定が導入されると、一般ユーザーには、どんなメリットがあるか。遊園地でアニメキャラクターと一緒に撮った記念写真のブログ掲載や、他人の作品を利用したパロディーは、こうした利用を許す個別規定が現行法には無いため、著作権法に触れる恐れがある。しかし、公正利用規定があれば、合法となる可能性もある。

著作物利用拡大へ法改正 ネット配信向け政府方針

しかし、本件はフェアユースがメインのようである。検索エンジンのキャッシュのようなものが、日本の著作権法では多分黒になるだろう、と危惧されていて、googleなどは触法リスクを考えて、日本国内にデータセンターを置いていない。逆にそうした敬遠が日本経済にとってデメリットである、ということからフェアユースを認める方向に世論が動いたとも思える。

パロディがフェアユースに含まれるのかは私にはちょっとわからない。パロディなどはむしろおまけで、今回の改正ではスルーされる可能性もある。

調べていると、フランスの著作権にはパロディ条項というのがあるらしい。http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20080219/1203429744

わざわざパロディを明文化してあるとは!これぐらいされると、かなり安心して言論や創作活動を行えるのだが…。

ニコニコ動画が白くなる日

条文がどうなるか、また条文が曖昧である場合に判例がどうなるかというのは、その時が来てみないと分からないのだが、著作権法改正がなされ、施行される日はニコニコ動画が「白」とされる日となるのかもしれない。

そんな状況なんだけど、冒頭引用したアンケート、印象操作の感が否めない。動画共有サイトは違法で、かつユーザも違法動画を望んでいる、というようにミスリードさせようとしているように思う。

現状のニコニコ動画を見ていると、TV放映されている番組の見逃した回を見たい、とか映画などの有料の動画コンテンツを無料で見たいというニーズへは応えていないし、そういう目的のユーザも基本的にはいないはずだ。

ま、アニメ本編を全部アップロードとかしている動画もたまにみかけるけど、すぐに削除されているし、それを目的として使うにはニコニコ動画は使えなさすぎるはずだ。そういうユーザは著作権法なんて知らないよっていう中国の動画共有サイトとかに流れちゃったんじゃないのかな。

ニコニコ動画はパロディ文化の渦巻くところになるように思える。そしてそれは、映像コンテンツの権利者からしても魅力的なマーケットとなるのではないだろうか。パロディは元ネタを知ることで面白さが増すものだもの。

*1:私は法律の専門家ではないが、触法リスクを考えて関わり合いになりそうな法律はできるだけ調べるようにしている。その程度に勉強した素人では太刀打ちできないぐらいにはグレーな部分だと思う。専門家に聞いても意見が分かれそうだし。

*2:ゲームのプレイ動画を、ゲームの研究のために引用することが可能かどうかを考えていた時期がある。昔、ゲームのスコアアタックのホームページをやっていたが、文章や図による解説に限界を感じていたため、動画による解説がどの程度、法的に可能なのかを検討したという経緯がある。

*3:自分の作ったものを公表しておきながら、批判されることを禁止することはできない。このへんは無断リンク論は麻疹のようなものかもしれない - プログラマーの脳みそ無断リンク禁止派の人ってttp://ならいいの? - プログラマーの脳みそで述べた

*4:動画内部で動画を引用して、そこで著作権が侵害された!というピンポイントな事件はなかなか起きないものである。もっとも、この表現の自由にかかわる重要事項の為なら本来の意味での確信犯として行動するだけの価値があると思う。ゲームのプレイ動画引用では真面目にそう考えたが、シルバーガンの中の人がプレイ動画を違法だ認めないというような発言をしたことがあって、そのあたりの動画が自粛された時期が重なりそのままうやむやになった。もう、随分と昔の出来事だ。

*5:白黒がかなりはっきりするプログラムの世界に身を置くとこういうのがなかなか我慢ならない。ま、ゲームみたいに可能なことはなんでもOKって世界もどうよとは思うのだけど、曖昧がために行動が委縮することも多い現代もバランスが悪いな、と思う。

*6:心象も悪いものではないと思うんだが、どうだろうか。検索エンジンのキャッシュを合法化させようと言う機運の中でWeb魚拓が違法とされるのはおかしいだろう

*7:ゲーム音楽とかNGなものが多いので注意。エロゲのオープニング曲みたいなのはJASRAC管理されていないケースが多い。TV局ですらゲームミュージック著作権を侵害して番組で使ったりするんだから…