インターネットが教えてくれないこと

 インターネットに向いていないことの論点はなかなか面白い。ネットで調べるのに向く情報、向かない情報というのを、デジュール・スタンダードとデファクト・スタンダードという観点で捉えたらどうか?という論。

経営学的にはデジュール・スタンダードとデファクト・スタンダードという言葉がある。
インターネットはデファクトなものを調べるなら向いているが、デジュールには向いていない。
むしろデジュールなものならば、それを公式的に決定しているところが刊行しているものを読んだ方がいい。
その方が確実にノイズが少なくて混乱しなくて済む。

インターネットに向いていないこと

 自分はIT屋なのだけど、本をかなり買う。年間10万ぐらいは費やしている。IT屋がネットではなく、書籍で情報を仕入れる理由は、書籍にはネットにない情報があるからに尽きる。これは現時点でのインターネット上に流通している情報の質が、書籍のそれとは違うと言うこと。インターネットは情報の流通路として非常に多様な使い方が可能で、その可能性を皆が信じているだろうが、現にネットに流通しない情報が多々ある。

 自分は業務上いろいろなことを調べてまとめることになるのだけど、そうした業務で調べた情報というのは外には出せない。技術者垂涎の調査結果がどこかの会社のどこかのサーバに死蔵されているというのはよくあること。著作権とか無視すれば外に出せるかもしれないが、秘密保持契約の元に作られた資料と言うのは通常公表できない。だから、あちこちで車輪の再発明的なことをやっている。

 ネットは情報の流通コストを劇的に下げた。本を丸ごと複製して流通させるには相応の労力・資金がかかるのでそんなことをする奴はそうそういないが、フィッシングサイトのようにどこかのサイトと見た目がおんなじサイトを作ろうと思えばすぐに作ることができる。書籍を作るというのは相応のハードルがあって、だから書籍と言うだけである程度信用を得るものであるが*1、情報の流通路でコストがかからないインターネット上ではそれこそ有象無象のピンキリの情報が飛び交っているのである。

IT屋がデジュール・スタンダードを探すとき

 IT屋も結構デジュール・スタンダード、つまり公式文章を探すことは結構ある。

 有名なところではRFCだし、Javaや.NETの標準ライブラリも公式のもをネットで参照するし、オープンソースフレームワークの仕様だってネットで探すし、言語仕様も英文でよければネットに公開されている。これらの特色は、その管理団体のようなものがあって、そこが公式のお墨付きで公開しているということである。

 つまるところ、インターネットという空間の中で、公式のサイトの公式な発表という権威付けを持っている情報を1次情報として信用する。

 そして、2次情報以下は個別に真偽を選別せねばならない。あるいは有用な情報を多く発信している人の発言であればある程度の信用を担保できるかもしれない。しかし、読み手が責を負って判断するのがネットのルールである。

ネットは判断をしてくれない

 IT分野というのは、コンピュータ上でその方法を試してみればたちどころに真偽がわかるという特徴がある。第三者による客観性に優れるため、権威ある人のソースコードだろうが、バグはバグで明確だし、だからこそ指摘することも躊躇する必要がないし、指摘された方も過ちを認めざるを得ない。なので、情報の真偽と言う観点で言えば、IT分野と言うのは比較的健全だと言える。*2

 プログラムのような機械と言う究極の第三者の判断があるからよいものの、その他の情報はその真偽がまったくわからない。「そのような情報が流布している」という事実を調べることは簡単だが、自分の判断が正しいかを確認する術をネットは提供してくれない。

はてなではない他の質問回答サイトで、ある法律の事案についてのベストアンサーがあったが、
それが全部間違えていた。
僕も勉強中の身分だが、今の仕事に関係する内容なのでこれははっきりと間違いだと断定できる。

何故間違えているのにベストアンサーなのかというと、おそらく質問者が法律の解釈の正当性よりも、
どれだけ自分に都合の良い解釈であるかを基準に選んだからだろう。

 というようなことが日常的に起きている。

 判断力がないから他の誰かに判断を委譲するというのは日常生活でも行われていることだけど、判断を委譲した専門家が正しいかどうかはどうやって判断したらよいのだろう?そんな問題があるということをよくわからないなら専門家にまかせろの危険性 - プログラマーの脳みそ見えないものを見る能力をどうやって信じてもらうか - プログラマーの脳みそで述べた。

まとめ

  • インターネットそのものは情報の正しさをまったく担保してくれない
  • どんな情報でもそれが正しいかどうかは個人が判断しなくてはならない
  • でもさすがにしんどいので、判断力がありそうな人の判断に委譲することが多々ある
  • 公式情報などは公式サイトで公に公開されているから信用されるだけ
  • そして自分が信用したそれが正しいかどうかは誰も教えてくれない

*1:もちろん、トンデモ本の数を見て分かる通り書籍だからと言って情報を鵜呑みにはできない

*2:宗教論争的な諍いや、概念的な話は真偽が判断しにくいのか燃えやすい傾向にある気がする